3軒長屋のリフォーム
店舗兼用住宅を一新し、
快適な住まいに。
本物件は3軒長屋のうちの1軒の店舗兼併用住宅のリフォーム工事と屋根の葺き替え工事です。店舗部分は触らずその他の1階部分を全面リフォームします。築年時期が昭和56年以前の建物なので耐震性に心配はありますが、3軒長屋という性質上、1軒だけの補強では倒壊しないレベルまで強度を上げる耐震補強は難しく、その中でできる限りの補強を施す必要がありました。
また、長細い間取りなので水回りの部屋は建物の奥のほうに配置するプランなっていたのですが、既存部分の水回りはすべて増築部分に作られており、増築部分の屋根の雨仕舞が悪く、本体の躯体に雨漏れを起こしており柱などが一部腐敗していたため、柱を取替える必要がありました。
内装は段差が多く、生活に不便であったことからバリアフリーに配慮し段差のない室内空間となるように配慮しています。
工事前現況
長屋の奥側からの工事前写真で、手前の平屋の部分が増築部分であった。この増築部分の雨仕舞が悪かったため、増築部分の躯体はほとんど腐敗してしまい、2階部分を支える柱もシロアリに喰われてしまっていた。
既存瓦の状態は下地材の劣化が激しく人が乗ると下地が沈むため瓦も割れてしまう。幸いにも長屋のこの1軒だけが他の2軒よりも棟が高く作ってあったため、1軒分だけの葺き替えが可能であった。この瓦と瓦土をすべて撤去し、下地のみの状態にする。
下地のみにした状態がこちら。垂木が細い丸太でピッチが尺五寸(約45cm)なので野地板(写真の横向きに張られている板)の変なところに乗るとズボっと抜け落ちてしまう。
既存の瓦が波打つようにガタガタだったのは、垂木が長年の瓦の重さによって経年劣化を起こし曲がってしまったためで、このままでは、新しい屋根材も同様に凹んだようになってしまうので、既存垂木の上に、新しい野地板(構造用合板)を乗せるための垂木を凹んだ部分の高さを調整しながら流す。
左の写真の下地の上に新しい野地板と下葺き材のゴムアスルーフィングを敷設すれば、カラーベストの施工となる。上部写真のあとに棟部の鈑金を取り付ければ屋根工事は完了となる。
窓の内側に窓を取り付けるLIXIL社製のインプラスは古い単板ガラスの既存サッシに取り付けても遮音性、断熱性、気密性が格段に上がる。 木目調の枠もあるため、部屋の雰囲気に合わせた色を選択できる。
増築部分のカラーベストはコケが生えてしまい水の流れ悪い。しかも既設部分との雨仕舞が悪く雨が漏っていたと考えられるほど躯体が腐ってしまっていた。
浴室そのものは広いが、洗面その分脱衣室が狭いため、使い勝手が悪そうだった。昔ながらの高基礎であったが、上からの雨漏れにより土台も腐っている部分が目立っており、モルタル壁のみで上部構造を支えているような状態であった。
増築部分は昔ながらの水回りの室であったため、柱や梁が痛んでいた。
店舗裏のスペースは地盤面と同じようなレベルだったため、扉の奥の部屋に入るのに20cm上がり、そこから左の部屋に入るのにまた10cm上がるなど段差が多かったため、普段の生活では不自由そうに感じた。
工事過程
①既存増築の解体
本体まで影響を及ぼしていた増築部分
左上の写真の手前部分が増築部分になりますが、この部分を撤去したのが左下の写真です。
写真が小さくてわかりにくいかもしれませんが、柱には増築部分をつなげるためのホゾ穴が掘ってあるのですが(右の写真)、2階を支える柱が少ないのにも関わらず、これほど大きな欠損部分を設けてしまうのは、2階部分の重さや構造的なことを考えるとあまり良いことではありません。増築部分の屋根と本体との接続部分の雨仕舞により梁部分にまで損傷が見られ、このまま何も施さずにリフォームすることはできず、柱を取り換えたり、壁面を補強するなどの措置をとる必要がありました。
②補強について
間口に開口部等で壁が少ない長屋構造のため短手方向の補強は必須ですが、壁をやみくもに増やせるわけではありません。上部に梁が架かっている部分を含めて揺れにくく補強しなければならないので、補強できる個所は限られてしまいます。その中でも建物を3分割したの南、北、真中あたりと3か所を、構造用合板や筋交いまたは両方使用で補強します。それに伴い、部分的な基礎なども合わせて施工します。
↑増築部分のやり替え前になりますが、腐ってしまっていた柱は新しく交換し、2階を支えている梁部分も受け材としてヒノキ105mm角を新しい柱が荷重を負担できるように加工しています。
↑道路側の部分にはヒノキ材の筋交いをたすき掛けにして補強しています。たすきがけにすることで、東西方向どちらの揺れにも同じようなエネルギー負担となるので、壁があまりとれない部分には有効な手段です。
→右の写真は補強前の壁内部の写真です。筋交い(斜めに入っている部材)がありますが、厚みがなく、柱と土台や梁との交点をつなぐように入っていないとほとんど効果がありません。この面にも構造用合板を施工します。
↑大部分の壁には構造用合板を土台と梁と柱を絡めて専用の釘で10cmくらいのピッチで打ち付けます。これによって上部構造が揺れにくくなるのでいくらかは強度を上げることができます。弊社の新築においてはあまり耐力壁(地震の揺れに耐えるための壁)に構造用合板は使用しませんが、リフォームにおいては下地を兼ねることもできますし、作業性、材料費等もそこまで高額ではないので、コストパフォーマンスの高い補強方法と考えています。もちろん、リフォーム工事に求められる対応年数が新築並みにということであれば、基礎から補強しなければなりませんが、お施主様のご希望や予算によって適切な補強方法をご提案しています。
③内装工事
補強が終わり、外壁の下地部分が終わると内装の工程に入ります。
配管、電気、造作が進むと部屋のイメージがわいてくるようで、お客様も毎日が楽しみとのことでした。
大規模リフォームの際に注意すること
リフォームでは、まったく新築と同じよう仕様で工事をすることはできません。最初から作るのとは違い、大きく躯体などを触ることができなかったり、周囲の状況や既存部分の状態などを踏まえた上での工法の選択が必要となりますので、昔ながらの工法を熟知し、限られた予算の中での最善策や費用対効果の大きい部位、お客様の希望されるものを優先して予算などを割り振っていきます。
本物件では、住みながらの工事ではなかったために、家具の移動等がほとんどなく、1階部分を自由に工事させていただけたのですが、住みながら大規模なリフォーム(1階部分を全面リフォームなど)を行う場合は工事エリアを何か所かに分けての工事になりますので、工期も、工事費用も若干上がってしまします。
④工事完了後
工事完了から約3か月後のお部屋のご様子を撮影させていただきました。
工事金額、工期等
工事種別 | 屋根葺き替え、リフォーム |
工事内容 | 土葺き屋根のカラーベストへの葺き替え工事、1階住居部分の全面リフォーム |
工事期間 | 約3か月 |
工事金額 | 約690万円 |
工事を振り返って
リフォームを決断したことで、建物倒壊のリスクを見つけ未然に防ぐこともできた
屋根の葺き替えと、1階部分の全面リフォームということで、築年数と増築部分のケアが重要でした。解体してみると案の定、増築部分との接点では雨漏れを起こしており、本体の柱部分までも腐らせてしまったので、工事することなく、もし大地震に曝されてしまったのであれば、かなりの確率で倒壊する可能性があったと考えられます。それを少しでも解消するためにできる限りの補強を施すことができたのは、これから住まうお客様にとっては、安心要素の1つになったのではと思います。
大きなトラブルに見舞われる前に、セルフチェックを!!
建物を長く使い続けるためには、ご自分で定期的な点検を行うことも大切です。雨漏れやシロアリなどを発見した場合は、そのまま放置せず、できるだけ早期に相談、修繕を行うことで、躯体へのダメージを最小限にする必要があります。中にはリフォームで取替えることができるものとできないものがあります、特に柱、梁などの躯体を直す、取替えということになると工事の費用が上がったりすることは十分に考えられますので、普段の生活の中で何か違和感を感じたら、早めに相談するなどして手を打つことが大切となります。